世界中のミクスチャー音楽を取り扱うWEBストア、discos PAPKIN。ワールド/トロピカル・ミュージックの比重も大きく、of Tropique としては気になる存在だ。特筆すべきはその品揃えで、カタログの独自性は数ある音楽ストアの中でも際立っている。情報がほとんど出回っていない海外のインディーズ作品まで網羅し、そのほとんどが視聴できる点も素晴らしい。しかしサイト上には何の説明もなく、どういう方針でどうやって運営されているのか、謎である。直接聞くしかない。冬の渋谷、音楽好きに愛される居酒屋サロン・MeWeで、代表の雨宮圭佑に話を聞いた。
[取材・写真 / 近藤哲平]
きっかけはマヌ・チャオ
雨宮:もともとクラブ・カルチャーが好きだったんです。ジャングルやドラムンベースを聴いていて、そこからレゲエにハマりました。
南米の音楽に惹かれたきっかけは、マヌ・チャオですね。あるDJイベントの終わった明け方、CARIBBEAN DANDY(※雨宮の所属するDJチーム)の藤井悟さんの家で、1stアルバムを聴かせてもらったんです。まだ21才ぐらいだったから、約20年前ですね。
ーパリ発ワールド・ミュージックのブームで、マノ・ネグラ(※マヌ・チャオの在籍していたバンド)は日本でも人気ありましたよね。
雨宮:そうですね。でもマヌ・チャオの1stはすごいシンプルで、マノ・ネグラのパンチが効いた感じとはまた違う。レゲエっぽいけどレゲエじゃないし、なんなんだろう、って思いましたね。
それからマヌ・チャオみたいな音楽を探すうちに、メキシコのモンテレーのアコーディオン・プレイヤー、Celso Pinaに出会ったんです。映画『バベル』のサントラにも使われた「CumbiaSobre El Rio」を聴いて、これだ!って思いました。イギリス人DJのRuss Jonesがコンパイルした『Future World Funk』っていうオムニバスの2曲めに入ってたんです。
雨宮:2001年のリリースで、ラテンやブラジルやいろんな音楽が入ってて、本当に面白い。エル・スール・レコードで試聴して、僕が欲しいのはこの2曲めなんだ!って思いました。でも、まだパソコンもなかったし、いろんな人に聞いても情報がなくって。これが「クンビア」っていう音楽だとわかったのは、数年後ですね。
HMV渋谷店
雨宮:自分の店を始める前は、2010年まで渋谷のHMVでワールド・ミュージックのバイヤーをやってたんです。
最初はダンス・ミュージックのコーナーに配属されて、そのあとなぜかジャズに移動になって。ジャズなんてぜんぜん知らなかったから、お客さんに質問されても分かんない。いちいち先輩に聞いて覚えていくしかなくって、大変でしたね。
雨宮:もともと夜勤スタッフとして入ったんですよ。そのころHMVは夜12時まで営業していたんです。僕が入る前、1ヶ月間だけですが朝5時までやってたこともあるんですよ。
ー朝5時まで!?
雨宮:Jpopや売れ線の置いてある1階のフロアだけ開放してたらしいんですよ。でも、始発待ちの酔っ払いだけになっちゃって(笑)。
ーそうなりますよね(笑)。
雨宮:それから1~2か月して、ワールド・ミュージックの売り場に欠員が出て、そっちに移ることになったんです。まだそんなに詳しくなかったんですけど、レゲエがわかればなんとかなるだろう、ってことで。運命を感じましたね。
ーCDの売り上げがだんだん下がっていく頃ですよね?
雨宮:そうですね。朝5時まで営業したり、お店としてはいろいろトライしてたんですけど、ソフトが売れなくなっていった時代だから売り上げもどんどん落ちていって。
ー音楽が売れなくなる過程を体験してるのにレコード屋をはじめるって、すごい決断だったんじゃないですか?
雨宮:ノリと勢いですね。結婚もしてなかったしガールフレンドもいなかったし、俺ひとりなんとかなるだろうって思って。会社勤めが嫌で、いつか独立したかったんです。
discos PAPKIN
雨宮:オンライン・ショップですが、ポップアップ・ストアをやることもあります。あと、僕はDJもやるから、DJと(販売と)セットでイベントに呼ばれるんですよ。函館、新潟、上越、郡山、大阪、高松、高知、松山、甲府、いろんな場所に行商に行ってます。
ーへー!フロアで流れて気に入った音楽を、その場で買えるわけですよね。
雨宮:そうです。これも好きなんじゃない?って勧めることもできるし。ライブ感があって、すごく楽しいですよ!
ーそれはいいですね!DJで呼ばれてるんだし、音楽性の合う人が集まるわけじゃないですか。お店の品揃え自体が独特だから、ファンも多いでしょうしね。
雨宮:喜んでもらえてる実感はありますね。
ー品揃えとしては、国内外問わずインディーズが充実してますが、最初からそういう方向性だったんですか?
雨宮:そうですね。HMVはスーパー・マーケットだから、なんでも売るんですよ。たとえば、韓流やKポップもワールド・ミュージックに分類されていて、なかには愛のない企画モノとかもあるんです。そうすると、なんでこんなの売らなきゃいけないんだ!って気持ちになる。だから今は、100%胸張っておすすめできるものだけ置きたいっていつも思ってます。それで気に入ったものをどんどん仕入れてると、ああいう並びになるんですよ。逆に今度は予算がないっていう問題もありますけどね(笑)。
ーdiscos PAPKIN のサイトは、試聴できるものが多いですよね。たとえばHMVやタワー・レコードで気になるアルバムを見つけても、2000円3000円すると即決はできない。せめて1曲でも聴けてそれが良ければ買うのに、って思ったことが何度もあります。
雨宮:そうなんですよね。今やってるのは、あのころできなかったことを、どれだけ細かいところまで小回り利かせれるか、ですね。
ー仕入れは、どうしてるんですか?
雨宮:ネットをメインに、とにかく探します。気になるものは、取引してる海外のディストリビューターのデータ・ベースを調べて、なければ、ミュージシャンに直接コンタクトを取ります。
ブラジルの町、ベレンの話
ー海外に行って仕入れることもありますか?
雨宮:1度だけ、3年くらい前かな、ブラジル北部のアマゾン側沿いの、ベレンっていう町に行きました。テクノブレーガっていう、ベレン発祥の音楽にどハマりしたんです。
雨宮:ビジネスのやり方も独特で、ソフトを売るんじゃなくて、とにかくライブでお金を稼ぐんですよ。ライブ会場でフリーのCDRを配って宣伝して、年間100本200本ライブをやって稼ぐっていうスタイルなんです。
ーアルバムとして、発売もしてるんですか?
雨宮:大きいところからちゃんと発売してるのは、よっぽど売れてる3つか4つのバンドだけですね。でもそういうものは、ディストリビューターがいくつも間に入ったり、送料も高いので、売値が高くなる。だから、現地で仕入れた方がいいんじゃないかと思って行きました。
でもあまりテクノプレーガ はありませんでしたね。以前にベレンに行ったことがあった吉祥寺Baobabの店主ヨースケ君に、レコードも買った方が良いと言われていたので、中古屋を回っていろんなレコードを買いました。
一番の収穫は、ギタハーダっていう現地の音楽を知ったことです。ランバダのインスト版みたいな、ギターがメインの音楽なんですけど、リズムも面白いしギターもいい。カリブの音楽やペルーのチーチャ、アフリカン・ギターの影響もあるし。
ーそれは現地に行ってから知ったんですか?
雨宮:そうです。レコード屋のおやじが教えてくれたんです。日本には情報もほとんど入ってきてなくて、僕はぜんぜん知りませんでした。ギタハーダあるか?って聞いてまわって、かなり仕入れましたよ。
ーその出会いはすごい!行った甲斐がありましたね。
雨宮:着いた時は怖くてしょうがなかったですけどね。ポルトガル語もぜんぜんできなかったし、文字情報もあまり調べてなくて。空港着いてホテルに着くまで、もう映画の『ロッカーズ』(※1978年のジャマイカ映画。レゲエ文化を世界に広める役割を果たした。)の世界ですよ。裸でバイク3ケツしてるような。小さな町だし、とにかく怖かった。治安がめちゃくちゃ悪いんですよね。ホテルのオーナーは日本人で、ブラジル人の奥さんとベレンに2~3年住んでるんですが、僕が行った2週間くらい前に、町で夜に身ぐるみはがされたそうなんです。メガネや靴まで、ぜんぶ持ってかれた、って。
ー靴まで!
雨宮: 南米は、別の宇宙だと思いましたね。文化も言葉もちがうし、すごくいい経験でした。
雨季だったんで、午後3時~4時の間にいつもスコールが降るんですよ。とんでもない量の。だから、朝から出かけて3時にはホテルに戻って、部屋でビール飲みながらレコードを聴くのが日課だったんです。日本で聴くのと現地の環境で聴くとでは、同じ音楽でもぜんぜん違って聴こえる。ああこの音楽はこの土地から生まれたんだ、っていう気持ちになりましたね。
ー土地の風土って、音楽に影響してますよね。
雨宮:そうですね。向こうの人は、ルーツに対する思い入れも強いですしね。
日曜に広場に行くと、着飾ったおばあちゃんがカリンボーの生バンドをバックに踊ってたりするんですよ。毎週広場で踊ることを楽しみにしてるおばあちゃんなんて、最高じゃないですか!
ー何年通ってるんでしょう。それが日常なんでしょうね。
雨宮:そう。日常に近いところに、カルチャーや伝統がある。不思議な町でしたね。すごく自由で居心地がよくて、ご飯も美味しいし、また来たいなって思いましたよ。アマゾン川も見れたし、とにかく最高でしたね!
50枚注文して15枚しか届かなかった話
雨宮:帰国して、それらを売ったことで、今度はブラジルのレコード・ディーラーがコンタクトしてきたんですね。値段交渉して50枚くらい送ってもらったんですが、荷物が届いてみたら、15枚くらいしか入ってなかった。
ーえー!
雨宮:送料の関係で二回に分けて送るから、って言うんですよ。1週間くらいしてまた荷物が届いたら、今度は3枚しか入ってないんですよ!しかも、前と同じレコードも混じってる。病気で入院してるから、とかわけわかんない理由を言ってくるんで、PayPal(※海外で多く利用されている決済会社)にクレームを出たんです。そしたら、いま海外にいるから自分の兄弟に頼んでレコード送らせた、って謝りのメールがきて。追跡番号もあって、ちゃんと発送されてる。で、何が来たと思います?
ーレコードじゃなかった?
雨宮:手紙が届いたんですよ。
ーえ!どういうことですか?
雨宮:直筆の手紙で、ゴメン、みたいなことが書いてあるんですよ。頭にきて破り捨てましたよ!(笑)
たぶん、詐欺的なディーラーだったんでしょうね。リストが本物だったのかもわかんないし、そのあとPayPalのアカウントも凍結されてました。こっちは、その50枚を年末の目玉商品にするはずだったので、もう大変でしたけどね。
ーうわー、それはつらいですね。
雨宮:以前にeBay(※海外のオークション・サイト)でレコードを買ってたときも、ブラジルからレコードが届いたことがないんですよね。もうブラジルから買うのはやめよう、って思ってたところに、その事件があって。まあいい勉強になりましたよ。これ話すと、みんな大笑いしてくれるし(笑)。
コロンビア音楽にハマる
雨宮:それ以来、南米からレコード買うのが怖かったんですけど、コロンビアのディーラーとは取引きしています。
ーコロンビア音楽にも強いですよね。
雨宮:コロンビア音楽は、HMVのワールド・ミュージック売り場でクンビアを特集することになって、Discos Fuentes(※コロンビアの老舗レーベル)を知ってからですね。そのレーベルにいたAfrosoundっていうバンドにハマったんです。センスのいいバンドで、コロンビアにいながらチーチャ(ペルーのクンビア)をやってて、90年代 になるとレゲトンやパナマのレゲエとかやりだすんですよ。マヌ・チャオも、Afrosoundのギターをサンプリングしてます。コロンビアでもペルー側のバンドなんですけど、そのうちコロンビアのアフリカ寄りの音楽にもはまって。パレンケっていう逃亡奴隷のコミュニティの音楽で、コンゴのスークースとかの影響を受けてるんです。
https://youtu.be/DaZ97r-oHVE
雨宮:これはAbelardo Carbonoっていう人のリーダー・アルバムで、82年のリリースです。
雨宮:アフロ・コロンビアのスーパー・ギタリストで、いまも現役でクアンティックと曲作ったりしてます。
雨宮:チーチャにハマってたし、ギター・クンビアだと思って買ったんです。それがアフロ・ルーツのコロンビア音楽だと分かったのは、Soundway(※トロピカル音楽シーンを牽引する、イギリスのレコード・レーベル。)から2010年に出たこの編集盤のおかげです。
雨宮:このレコードのおかげで、色々な点がつながって線になりました。そのころのSoundwayはまだリイシューがメインで、出すコンピ出すコンピがぜんぶヤバかった。出たら全部買ってましたね。
ーいまはどうやってシーンをチェックしてますか?
雨宮:やっぱりネットですね。あと、昔から大好きで店でも取り扱ってるGalletas Calientes Records っていうレーベルがあって、そこのオーナーから教えてもらうことも多いです。新しいリリースや、これからやろうとしてる情報とか。このレーベルは、システマ・ソラールのファースト・アルバムのリミックスシングルを出してたので知ったんです。どこからも仕入れられなかったので、直接コンタクトを取りました。僕のお店のベースの一つですね。彼はフランス人で、僕が知った時はまだフランスで活動してたのが、そのあとコロンビアに移住したんです。自分のやりたいことに素直で、ビッグ・リスペクトなんですよ。やっぱり移住となったら、勇気がいりますからね。
トロピカル・ミュージック
ー現行のトロピカル・ミュージックを聞きたいと思っても、手がかりがないんです。ネットを探せば個々の情報はあるんだけど、それを整理するマップのようなものがない。もちろんガイド本なんか出てないし。
雨宮:僕の中にも、トロピカル・ミュージックのマップはないんですよ。お店もトロピカルミュージックの専門店ではないし。
ーたとえば、サルサやレゲエって、ジャンルとして確立してるじゃないですか。だからイメージもしやすい。でもトロピカル・ミュージックっていうジャンルは、まだそこまで確立してないものなのかなって。
雨宮:「トロピカル」っていうのは、ジャンルというより、ひとつのキイワードでしかないと思うんですね。カリプソやレゲエの中にトロピカル・ミュージックの要素はあるし、ブラジルにもアジアにもある。だから定義づけしにくいですよね
ーなるほど。鈴木さん(鈴木庸介。こちらのインタビュー参照。)と話したときにも感じたんですが、発信する側の人たちも、シークレットな情報ルートを持ってるわけじゃない。探しまくってトライ&エラーを積み重ねるうちに、「トロピカル」というキイワードに対する基準ができていくのかな、って。だから、discos PAPKINのお客さんて、トロピカル・ミュージックのファンじゃなくて、雨宮さんのファンだと思うんですよね。
雨宮:そうかもしれないですね。トロピカル・ミュージックが何かって、僕もよくわからないですからね。
ーたとえば、トロピカルミュージックに興味あるんだけど何聞けばいいですか?って質問されたとしたら、どう答えます?レゲエの名盤何ですか?みたいなノリで。
雨宮:うーん。たとえば、これとか。
雨宮:Uproot AndyっていうDJがBersa Discosから出した12インチ(レコード)です。出たのが2008年で、もう廃盤で手に入らないんですけど。ZZK(※アルゼンチンのレコード・レーベル。デジタル・クンビアの火付け役となった。)と一緒に台頭してきたレーベルで、デジタル・クンビアの他に、パナマのレゲエやアフロ・コロンビアのリミックスも出してました。
これが僕の中でのトロピカルですね。アフロでカリブでハッピー。明るさが根底にあるものが好きなんです。キモを押さえてない人がやると、キラキラしすぎちゃうんですよね。聴いてて恥ずかしくなっちゃう。あんまりキラキラしすぎてもダメで、硬派な不良性もないといけない。
ーなるほど。マヌ・チャオなんて、不良性ありますもんね。そういえば、彼が出てきたころって、まだトロピカルっていうキーワードはなかったですよね?
雨宮:なかったですね。90年代はバルセロナが熱くて、「移民」「ディアスポラ」がキーワードだったと思うんですよ。音楽で言えば、ラテン、ミクスチャー、メスティサーヘですね。トロピカルって、2010年以降のキーワードなのかもしれない。バンパイア・ウィークエンドが出てきたのもその頃ですね。
ーなるほど。バンパイア・ウィークエンドからの音楽の流れも、トロピカルって呼ばれてますよね。トロピカルっていうキイワードが可視化されたのは、彼らがブレイクしたことも大きいのかもしれない。でも、あっちには不良性をあまり感じません。
雨宮:マーク・リボーのような、偽物っぽさを売りにする感覚が、ウィークエンド・バンパイアにはないですよね。ハッピーになりすぎちゃってる。
雨宮:彼らの思ってるトロピカルと、僕らの思ってるトロピカルって、きっと違うんですよ。「トロピカル」って、そのくらい実態のないものなんですよ。細分化されていろんなものが出てきて、面白くなっていくのはこれからじゃないですかね。
『キング・オブ・コメディ』
ーそういえばdiscos PAPKINの「パプキン」て、どういう意味なんですか?
雨宮:映画『キング・オブ・コメディ』の、ロバート・デ・ニーロが演じる主人公の名前から取ったんですよ。ルパート・パプキン。スペルは変えてますけど。
ーそうだったんですか!
雨宮:ルパート・パプキンは34歳で、僕も店をはじめたとき34歳だったんです。コメディアンになりたくて誘拐までやっちゃう。パッションというか、そのくらいの気持ちでやりたいな、って。
ー「パプキン」てなんだろう、って気になってたんですよ。最初は、かぼちゃのパンプキンかな、って思いました。
雨宮:主人公がなかなか名前を覚えてもらえなくて、パンプキンさん?って間違えられるシーンがあるじゃないですか。あれをやりたかったんです(笑)。お店のショップ・カードも、映画の最初の方でパプキンがジェリー・ルイスに渡すカードをサンプリングしてるんですよ。「僕の誇りと喜びを」、って言って渡したカードが、実はPride&Joyっていう洗剤のカードだった、っていうシーン。
ーへー!そこまでは覚えてないです。
雨宮:まあ、そうですよね(笑)。最初は、パプキン・レコーズにするつもりだったんですけど、CARIBBEAN DANDYの須藤(カズヒロ)さんに、discos PAPKINがいいよ、って言われて。
ーそれ、Discos Fuentesからですか?
雨宮:そうです!
ーなるほどー!しかし、扱ってる音楽から『キング・オブ・コメディ』は連想しないだろうし、そもそもスコセッシ&デニーロの中ではマイナーな作品じゃないですか。それとDiscos Fuentesって、さらに結びつかない。
雨宮:誰にも指摘されたことはないですね(笑)。
ーそういうこだわりって、いいですよね。気づかれない部分にこだわるって、無駄かもしれない。でも「無駄な情熱」こそが素晴らしいと思います。何かが滲み出してきて、ぜったい面白くなる。
それにしても、ルパート・パプキンに憧れてる時点で、ビジネスとしてどうなんだ、って(笑)。
雨宮:でもあの映画、パプキンが刑務所から出てきてベスト・セラー出して人気コメディアンになる、ってところで終わってますからね(笑)。
ーたしかに!(笑) そのうちdiscos PAPKINからベスト・セラー級ヒットが出るかもしれない。
雨宮:そうだといいですね(笑)。まあ、なんとか6年やってこれましたよ。店をはじめたときは30タイトルだけで、しかも各タイトルにつき1枚~3枚くらいしか仕入れてなかったんです。ビビりだから、在庫抱えたくなかったし、お金もなかったんで。それがいまでは1700タイトルくらいに増えましたからね。
ー初期衝動がすごいですよね。田舎からバンドやりたくて荷物ひとつで上京してきた少年のノリですよ。
雨宮:やるしかない!やるんだ!みたいな気持ちでしたね。
これから
ーここまでやってきて、次の目標やアイディアってありますか?
雨宮:実は、いまは制作に興味があるんですよ。レーベルをやりたいんです。Copa Salvoと7インチ(・レコード)を出す話を進めてます。
ーいいじゃないですか!7インチだから、2曲ですか?
雨宮:はい。曲もできてるしデモもあって、あとはレコーディングするだけなんですけど、(Copa Salvoの)リーダーが新潟に住んでるのでスケジュール調整が難しいんですよね。やれることは先にやろう、って思って、ジャケットの撮影もして、プレス会社に見積もりも出してもらってます。レーベル・マークのイメージもあるし、あとは曲ができてくるのを待つだけなんですよ。Copa Salvo初の日本語詩なんです。今までと違う感じで、すごくいいですよ!
ー へー!聴いてみたいです。キャリアのあるバンドの初の日本語詩なんて、反響も大きいでしょうね。「新生Copa Salvo!」みたいになるといいですよね。
雨宮:そうですね。3枚4枚とリリースを続けて、アルバムまで出したいと思ってます。
ー30枚からはじめて、6年やって、制作まではじめて、って、ひとつのサクセス・ストーリーだと思います。そもそも最初から、センター街に出店したりビル建てることを目標にしてないわけだし。
雨宮:ぜんぜん思ってないです。そういうことじゃないですからね。
ー節目ごとにCARIBBEAN DANDYの人たちやいろんな助けがあったり、お店のファンも含めて、音楽を好きな人たちが周りに集まっているのが素晴らしいですね。ビルなんか建てるより、とても健全だと思います。
雨宮:本当に、いろんな人たちのおかげですよ。DJとレコード屋で飯食っていけるんだ、っていうところを見せたいですね。なかなか音楽で食えない後輩を雇うくらいまでいきたいなーって思ってます。
ーそうなったら最高ですね!
雨宮 圭佑 (あめみや けいすけ)
山梨県甲府市出身。DJ Crew「Caribbean Dandy」の一員としてFuji Rock Festivalなどの国内外のフェスから大小さまざまなクラブ、ライブハウス、バーなどで活動。これまでにレゲエ専門ではないDJ/クリエイターによるレゲエ・ミックスCDシリーズ「Strictly Rockers」から世界の裏打ちと銘打った「El Ritmo Del Mundo De Atras」をリリース。またコロンビアの名門レーベル「Discos Fuentes」の音源をセレクトしたクンビア・コンピレーション・アルバム「CUMBIAS CUMBIAS CUMBIAS CUMBIAS」の企画・監修・解説の執筆などを行う。2012年よりオンライン・セレクト・CD/レコード・ショップ「discos PAPKIN」をオープン。現在はネットだけでなく出張販売も頻繁に行っている。